工房の扉を開けて ― 東吉野オープンアトリエを巡る

東奈良名張地域の中でも一番南に位置する東吉野村は、大阪市内から車で約1時間30分~2時間、東吉野村山々に囲まれ美しい清流が流れる静かな村です。夏は関西の川遊びスポットとして人気急上昇中、「関西のマッターホルン」と呼ばれる高見山は登山家の間でよく知られています。

高見山 / Mount Takami
冠雪した高見山

吉野杉や柿の葉寿司、鮎やあまご、そうめんなど、自然の恵みを生かした特産物も豊富です。

柿の葉寿司 / Persimmon leaf sushi
柿の葉寿司

その他にも、このちょっと人里離れた隠れ家的な村をより個性的にしている理由があります。それは、多くのアーティストやクリエイターが東吉野村を拠点に活動していること。海外からのアーティストもいるというのですから驚きですよね。

作家がアトリエを開放する特別な期間

今回は、居住クリエイターたちがどんな作品を作っているのか、東吉野村でどのようなライフスタイルを送っているのかに触れるため「はじまりの東吉野オープンアトリエ」というイベントに行ってきました。

「はじまりの東吉野オープンアトリエ」は昨年に続き今回が2回目で、オープンアトリエのタイトルが示すように、クリエイターが工房やアトリエを開放するというもの。作品を鑑賞したり購入できるだけでなく、実際に作家の方とおしゃべりしたりして、彼らの東吉野村でのライフスタイルにも触れることができる、年に一度、4日間の特別期間なのです。

東吉野村へ

秋も深まってきた11月3日、私は友人2人を引き連れて東吉野村に出かけました。友人Nは名古屋在住、友人Kは大阪在住なので、私たちは近鉄・名張駅で待ち合わせ。そこから私の自家用車でいざ東吉野村に出発です。

街からしだいに自然豊かな山々に囲まれたエリアへと入っていきます。そして車を走らせること約1時間、東吉野村に到着しました。

今回は、いろいろ回った中から海外から移住された作家さんのアトリエをご紹介します。

Higashiyoshino Village / 東吉野村

Ha Partners

東吉野村役場の駐車場に車を停め徒歩で向かったのは、イギリスから移住したフィリックス・コンランさんのアトリエ「Ha Partners」。名前でお気づきの人もいるかもしれませんが、この方のお祖父さまは、日本にもある家具ショップ「ザ・コンランショップ」でお馴染みの家具デザイナー、テレンス・コンラン卿だそうです。

Open Atelier / オープンアトリエ

それを聞いて、(Terence Conranコーヒーカップセットを持っているのもあり)ちょっと緊張していたですが、フィリックスさんの作品を拝見しつつ、ちょっと話しかけてみたところ…笑顔がとても素敵な気さくな方でほっとしました。

私「ここには年にどのこくらいの期間滞在する予定ですか?」
フィリックスさん「ずっとですよ。イギリスに帰るのは友達の結婚式くらい笑」
私「えー!」

しかし、ご自分の作品のことを話すときは本当に真剣。自宅のリノベーションが進行中とのことで、その過程そのものが作品となっていて、特産の杉の木材を使ったフローリングの模様の意図、どのようなキッチンにするかなどを熱い眼差しでお話ししてくれました。

Open Atelier / オープンアトリエ

その横には、パートナーであるエミリー・スミスさんの、かわいらしいきのこの作品が展示されていました。エミリーさんは他の方とお話ししていたのであんまりお話しできなったのですが、もう少し待って詳しく話を聞けばよかった、と今頃後悔しています。

Open Atelier / オープンアトリエ

Atelier MA

車に戻り、次の目的地へと移動します。実は私は昨年のオープンアトリエにも来ていて、その時に訪れたアーティストの作品が気に入っていたので今年も訪問してみました。

「Atelier MA」は倉庫を改装したアトリエ。外観は殺風景なのですが、中に入ってみると別世界が広がります。だだっ広い空間に掲げられたカラフルな作品、無造作に床に置かれた絵の具と描きかけと思われる作品からは創造力のパワーがみなぎっています。これこそがオープンアトリエの魅力。

Open Atelier / オープンアトリエ

ここの主はアーティストのダグラス・ディアスさん。去年おじゃましたとき、彼のパワフルでワイルドな作品がとても気に入った私は、
「ダグラスさんの作品は、東吉野のような人里離れた山あいの村とは対照的に、どこか都会的なものを感じる…」とダグラスさんに話すと、
「実は僕はニューヨーク出身なんです。それが作品に表れてるのかも」とのこと。どうりで!と腑に落ちたのを思い出しました。

すると、ダグラスさんが出迎えてくれました。私はとっさに

「ハーイ、去年来たんですけど、私のこと覚えてますか?」と聞くと、
「もちろん!元気でしたか?」とダグラスさん。アーティストとの再会。とってもうれしいですね。

Open Atelier / オープンアトリエ

ダグラスさんの作品、昨年おじゃましたときは墨で描かれたようなモノクロっぽい作品だったのですが、今年はガラリと変わって多彩な色が使われているカラフルな作品が増えていました。

本人曰く「Big change」とのこと、その変化にちょっとついていけない私でしたが、やはりベースの作風はしっかりと引き継がれていました。

今年は彼の作品を小さくてもいいから買いたいなと思い、1つ選ばせていただきました。選ぶのにそんなに時間はかかりませんでした。

Open Atelier / オープンアトリエ
ダグラスさんが作品をきれいに包装してくれているところ

早速家に帰って額装したのがこれ。実は家のどこに飾ろうかまだ迷い中です!

作品 / Artwork

どうして東吉野村にはこんなにもアーティストが集まるのか、何に引き寄せられるのか。オープンアトリエに来てみて、少しだけわかったような気がします。

私なりの解釈ですが…人工的なものにあふれる雑多な環境からいい意味で遮断された東吉野村は作品創りにも集中でき、さらに自然や伝統文化などアーティストにとってクリエイティビティの源にもあふれているのではないでしょうか。でもそれだけじゃない、凡人にはわからない“何か”があるに違いない。だってこんなに素晴らしい人たちが活動の拠点にしているのだから。

では最後に、他のアトリエと昨年のオープンアトリエのようすの写真もご紹介します。