日本の里山を巡る旅!温泉、自然、そして地元の味

兄と行く、やまなみドライブ

兄が「日本に遊びに行きたい」って言ってくれたときは、めちゃくちゃ嬉しかったです! 彼はこれまでに海外旅行をしたことはありますが、ほとんどヨーロッパばかりでした。今回、彼にとっては初めての“日の出ずる国”日本。兄も「ありのままの日本」を体験して、地元の人と同じように本物の日本文化を味わいたいとのことでした。そして僕は、東奈良名張エリアを兄に自慢したくて、どこがいいだろうといろいろ思いを巡らせたのでした。

Shorenji Lake
一年を通して静かで美しい青蓮寺湖。周りの緑豊かな自然を映し出す様は、本当に圧倒される美しさです。

多くの人が日本文化と聞いて思い浮かべるのは、アニメやマンガ、寿司、侍などのステレオタイプなイメージではないでしょうか。でも、日本人に「日本文化といえば何?」と聞くと、高い確率で「温泉」という答えが返ってくるはずです。

温泉はただお風呂に浸かる場所というだけではなく、それ自体がひとつの文化的な存在であり、日本の伝統を支える大切なものです。古くから、温泉は身を清める儀式の場であり、地域コミュニティや人とのつながりを育む場所とされてきました。だからこそ、僕は思うんです。日本に来るなら、温泉に入らないことには本当の意味での日本旅行は完成しないんじゃないかと。

Xavier's brother
兄のイアンです。この写真ほどカッコよくはないんですけどね…。

兄も温泉体験には賛同してくれました。兄の肩にはファッションタトゥーが少し入っているのですが、問題なく入れますようにと願い、温泉へと向かいました。 

Shorenji Lake

僕たちは、三重県の名張から青蓮寺湖(しょうれんじこ)を回って香落渓(かおちだに)という美しい渓谷を抜ける、景色のいい山道のルートを選びました。結果、このエリア自慢の素晴らしい自然を存分に兄に見せることができました。おまけに、このルートなら交通量の多い道を避けられるんです。

旅の最初の観光スポットは青蓮寺湖。ここはバス釣りや鮎釣りで有名な場所です。湖面はとても穏やかで、鏡のように周りの山や自然を映して輝いていました。

Kaochidani Valley
途中の駐車スペースでちょっと休憩。周りの景色が最高すぎて、ドライブが本当に特別なものになりました。

Cliff at Kaochidani

車を走らせていると、景色は湖の開けた風景から一変、香落渓に入ったようです。目の前にそそり立つ断崖絶壁が現れました。右側には、悠然とそびえる山。まるで永遠にそこにあり続けるような存在感です。左側には急な崖があり、その下を勢いよく流れる川が、命であふれているように見えました。

Shorenji River flowing through Kaochidani
何度通っても、香落渓の自然の力強さには圧倒されます。

途中、ところどころにある駐車スペースで車を止めては、景色をゆっくり眺めたり、その美しさを全身で感じたりしました。香落渓を抜けて奈良県に入り、曽爾村(そにむら)に近づいたところで、僕たちはあえてメインの道を外れて、さらに山道を進むことにしました。

Mountain road
写真には写っていませんが、左側の木の間から断崖絶壁が見えるたびに足がすくみました。

正直、この山道が今回のドライブで一番スリリングだったかもしれません。道幅はどんどん狭くなり、ついには砂利の一車線だけになりました。まるでラリーのスペシャルステージみたいで、ヘアピンカーブが続き、山を上ったり下りたりするんです。でも運転していた兄は大喜び。「ニュージーランドの裏道を思い出すよ!」と言っていました。もし運転好きなら、このルートは絶対おすすめです。きっと期待を裏切らないと思いますよ。

たかすみ温泉でひとっ風呂

Takasumi Onsen

そして東吉野村に入り、たかすみ温泉に到着すると、趣のある木造の建物が迎えてくれました。兄は日本語が話せないので、まず僕が先に入りました。たかすみ温泉は2000年9月にオープンした温泉で、泉質はナトリウム塩化物泉です。この泉質は、筋肉痛やうちみ、疲労回復などに効果があるそうですよ。

Takasumi Onsen entrance

温泉に入ると、まず靴を脱ぎます。そして面白いことに、受付で入浴券を買うのではなく、券売機でチケットを購入するシステムになっています。入浴料だけでなく、タオルやシャンプー、ヘアブラシなど必要なものも、ここで一緒に買えるようになっています。残念ながら、券売機のボタンには英語表記がありません。でも、スタッフの方はとても親切なので、わからなければ声をかけてください。きっと助けてくれますよ。

Ticket machine at Takasumi Onsen
この自販機のレトロフューチャー感、たまらなく好きです。

他の温泉と同じように、まず脱衣所で服をロッカーにしまいます。そしてお風呂に入る前には必ず体を洗って流す必要があります。外国人の場合、この体を洗う時間が、実際に温泉に入るよりも気まずいと感じる人もいるかもしれません。というのも、シャワーは個室ではなくオープンスペースになっていて、シャワーヘッドの下に低い椅子が並び、隣との距離もかなり近いんです。このような近い距離感に慣れていないと、ちょっと緊張するかもしれません。でも心配ご無用。みんな同じ目的で来ているので、がんばってサッと済ませてしまいましょう。そしてこのあと温泉に入れば、気持ちよすぎてそんな心配は吹っ飛んでしまいますよ。

Hinoki bath at Takasumi Onsen
滑らかなヒノキが、温かく上品な雰囲気を演出してくれます。(写真提供:東吉野村役場)
Rock bath at Takasumi Onsen
ゴツゴツした岩の露天風呂に入ると、自然と一体になった感覚をダイレクトに味わえます。(写真提供:東吉野村役場)

たかすみ温泉には、2種類のお風呂があります。ひとつはヒノキ張りの室内風呂、もうひとつは石造りの露天風呂です。子どもの頃以来の、誰かと一緒にお風呂に入るという気まずい体験をなんとか克服して温泉に入ってみると、それはもう最高!お湯はしっかり熱くて、疲れやストレスが一気に溶けていく感じがしました。

この2つのお風呂について僕たちは違った感想を持ちました。僕はというと、滑らかなヒノキの浴槽がとても上品で落ち着いた雰囲気だったのでとても気に入りました。一方、兄は露天の岩風呂がよかったとのことです。 岩や石に囲まれていると自然と一体になった気がして、まるで昔からそこにあった場所を偶然見つけたような感覚になるよ、と言っていました。

Takasumi Onsen

ヒノキ木材のほうは、岩と比べるとより手が加えられ、ベンチなどにも加工されていました。1時間ほど入浴し、僕はお風呂から上がって着替え、快適な待合いスペースでリラックスすることにしました。

Takasumi Onsen
温泉で温まったあと、帰路に立つ前にラウンジでまったり。

今回は行けませんでしたが、近くにやはた温泉という温泉があるとも聞きました。機会があったらそちらにも行って、二つの温泉を比べてみたいですね。今回のたかすみ温泉、兄も無事温泉に入れたし、本当によかったです。思いがけない素晴らしい発見でした。

天好園:森と清流の恵みを味わう

温泉で温まったあと、ちょっと小腹が空いてきました。兄も「日本の伝統的な料理を食べてみたい」と楽しみにしていたようです。旅行中、これまでのところ、兄が食べたのは空港のご飯と僕が作った料理だけだったので、ちょっとかわいそうでした。

そんなとき、受付の方が近くにある「天好園」というお店を勧めてくれました。ここは日本食を出していて、しかもたかすみ温泉から車で2分という近さです。実は、来るときにその前を通り過ぎていたみたいなのですが気づかなかったようです。 そのときは、テニスコートに車が停まっているなんておもしろいなと思っていたんですが、さほど気にもかけませんでした。まさかあれが天好園の駐車場だったとは。

Koi at Tenkoen
池のコイたちは僕たちの存在なんて気にせず、ゆっくりと泳いでいました。あんなふうに何も気にせず過ごせたら、どんなに幸せだろう、と思います。

駐車場からお店まで歩く道のりは、木々がたくさんありコイが泳ぐ池もあって、とても癒されました。この景色をどう表現したらいいのか、なかなか思いつかなきませんでした。というのも、そのときの感覚を簡潔に表現できる言葉が見つからなかったから。コイがゆったりと池の中を泳いでいて、全体的にはのんびりとした雰囲気なのに、周りの自然からは生命のエネルギーが溢れていて活気も感じられました。まるで日常の忙しさから切り離された別世界のようなのに、ほんの数メートル先には普通の道路があって、ときどき車が通り過ぎていく…。

Tenkoen yard

そんな僕の悩みを、兄が思いがけず解決してくれました。
「ゲミュートリッヒ(gemütlich)だね」と一言。
ゲミュートリッヒとは、“居心地がよい”という意味のドイツ語で、単に物理的に快適であるだけではなく、気持ちも落ち着くといった意味合いがあります。

そのとき、ハッと気づきました。僕はこの感覚をどう表現するかばかり考えていて、実際にその感覚を味わうことを忘れていたんです。せっかくすばらしい景色とおいしい料理を楽しみに田舎まで来たんだから、難しく考える必要はないんですよね。

Tenkoen

この“ゲミュートリッヒ”な感覚は、天好園の中でも続いていました。店内の落ち着いたインテリアがキッチンから漂ってくるおいしそうな香りを引き立てていました。

Tenkoen
天好園の店内には民芸品がたくさん飾られていて、見ているだけでも楽しかったです。五感で楽しめる場所でした。

僕はランチセットを注文しました。焼き魚に、地元の野菜の盛り合わせ、味噌汁、ご飯がついてくるセットです。兄はぼたん鍋、つまりイノシシ肉の鍋を頼みました。

Lunch set at Tenkoen
アメコミに登場するヴィラン、サノスなら絶対気に入るはずです。「すべてはバランスが大事」ってやつですね。

ぼたん鍋は鍋だけ出てくるのかと思っていたのですが、野菜の盛り合わせとご飯もついてきました。とてもシンプルなのにすごくおいしい、地元ならではの食事。食材はその日の朝に獲れたばかりのようで、どれも味付けがちょうどよく新鮮でした。

Wild boar hotpot at Tenkoen
ぼたん鍋のだしは、見た目以上に旨味がしっかりしていました。

実際、兄が一番気に入っていたのは、野菜の副菜と一緒に出されたシイタケでした。だしの味がしっかり染み込んでいて、シイタケ独特の風味も合わさり、一口かじれば旨味がじわりと広がってとてもおいしかったそうです。僕はというと、シンプルな焼き魚が気に入りました。塩だけで焼かれていて、魚本来の濃厚な味わいがダイレクトに伝わってきます。それを、柔らかくてもっちりと炊いた日本のお米と一緒に食べると口当たりがとてもよく、最後の一口まで本当においしくいただくことができました。

Grilled fish at Tenkoen
この魚、僕にかみつこうとしてるみたいですよね!でも残念、先に僕がかみついてやりました。

総じて、兄とのドライブは大成功。本当に忘れられない体験になったと思います。僕は自分の住むエリア、東奈良名張の魅力をいろいろ紹介できたし、兄も温泉に入ることができて、日本文化として切っても切れない一面をしっかり体験できました。

僕たちは二人とも、せっかく外国まで旅行に来たなら、わざわざ慣れたことだけをする意味なんてないと思っています。 一番大切なのは「新しいことを体験すること」ですよね。一番成長できるのは、自分のコンフォートゾーン(居心地のいい場所)から出たときだということがわかりました。温泉に入ることは、僕たちにとって完全にコンフォートゾーンの外でしたが、やってみて本当に良かったと思っています。

帰り際に、たかすみ温泉のスタッフの方に「世界に向けて何かメッセージはありますか?」と聞いてみました。すると、みなさんは、特に外国の方を含めて、いろんな人たちと交流したいと思っていると言っていました。そして「ここでお会いできるのを楽しみにしています」と。僕も心からそう思います。もしこのエリアに来ることがあったら、ぜひこの素敵な温泉を訪れてみてください。

Xavier

たかすみ温泉
営業時間:11:00〜21:00(12/1〜3/15は20:00まで)
定休日: 木曜日 (木曜日が休日の場合は翌日) / 年末年始
入浴料: 大人(12歳以上) 500円/子ども(6〜11歳)200円/6歳未満無料
※この情報は2025年6月現在のものです。
公式サイト: https://furusato-mura.jp/shisetsu/takasumi.php
所在地: https://maps.app.goo.gl/DRzTbVrWmBKf4WU89
やはた温泉
営業時間:11:00〜21:00(12/1〜3/15は20:00まで)
定休日: 火曜日 (火曜日が休日の場合は翌日) / 年末年始
入浴料: 大人(12歳以上) 500円/子ども(6〜11歳)200円/6歳未満無料
※この情報は2025年6月現在のものです。
公式サイト: https://furusato-mura.jp/shisetsu/yahata.php
所在地: https://maps.app.goo.gl/53NkisFmSWpUFUuL8