幻想的な夕べ―曽爾高原山灯り―

曽爾高原に到着

私は奈良県の田園地帯に広がる曽爾高原(近鉄・名張駅から車で約35分)の中心に立っていました。夕日がゆっくりと傾くにつれ、目の前の景色はみるみるうちに姿を変えていきます。高原の中心にあるお亀池のまわりでは灯籠がやさしく灯りはじめ、まるで大地に散りばめられた星のように瞬いていました。私はその静けさに心を奪われ、ただただ見入って立ち尽くしていました。

時期は9月の終わり。3月から9月下旬まで高原を覆う鮮やかな緑が色あせ、入れ替わるようにやわらかな銀色を帯びたススキが姿を現しはじめる、短い季節の端境期です。10月から翌年3月にかけては、この優美な穂が高原一面を覆い、金銀の波のように風にそよぎます。この自然のサイクルは毎年繰り返され、春先の山焼きで締めくくられます。山焼きは土地を整え、次の季節に向けて土壌を育むための営みです。

周囲の山々は高原をやさしく抱き込むように連なり、まるで別世界に足を踏み入れたかのような感覚を与えてくれます――静かで神聖、けれどどこか生命の躍動も感じられる場所です。

Soni Highland with lanterns / 曽爾高原山灯り
到着したころ、月がちょうど昇りはじめたところでした。まるで歓迎のあいさつのようで、幻想的な雰囲気をいっそう高めてくれました。

山灯り

毎年秋になると、お亀池のまわりに200基の灯籠が並べられ、光の輪が生まれます。上空から眺めると、まるで炎の輪のよう――この世ならぬ美しさに誘われ、近隣はもちろん遠方からも多くの人が訪れます。池のほとりに立っても、階段を上って高い場所から見下ろしても、山灯りは人を惹きつける不思議な魅力を放っています。まるでおとぎ話の世界に迷い込んだかのような、そんな驚きがあるのです。

視覚だけの体験ではありません。やわらかな光と広い空に包まれていると、心が静まり、今この瞬間、自分が確かにここに存在するという感覚が訪れます。灯籠、草原、空、そして静けさ――シンプルなものからどれほどの喜びが生まれるのかを、そっと思い出させてくれます。

やがて緑の草地はススキへと完全にバトンタッチし、昼も夜も光を受けてほのかに輝く柔らかな色合いで高原を覆います。毎年このドラマティックな季節の移ろいを収めようと、写真愛好家や自然を愛する人々がここに集います。写真ももちろん素敵ですが、実際にその場に立つ体験に勝るものはありません。

Soni Highland with lanterns / 曽爾高原山灯り
お亀池の左手に延びる遊歩道。

高原を登る

緩やかに高原を縫う階段へ向かうあいだ、私は何度も立ち止まって景色を眺めてしまいました。夕陽のオレンジを受けたススキは、内側から発光しているかのよう。灯籠の灯りはそよ風に揺れ、足もとにあたたかな光の丸い輪をつくります。

階段の手前にはベンチが並ぶオープンな休憩スペースがありました。静かに昼食をとったり、昼下がりに読書したり、ただ景色を眺めるだけの時間にもぴったりの場所です。いつか本を持って、ゆっくり過ごしに戻ってこよう――そう心にメモしました。

ようやく階段のふもとに到着。最初は少し大変そうに見えるかもしれませんが、上からの眺めは頑張った分以上に報われますよ。道は一年を通してよく整備されていますが、自然の中を歩く以上、歩きやすい靴と水分の用意をおすすめします。ちなみにこの日は、うっかり車に水を置いてきてしまいました。

Soni Highland at dusk lanterns / 夕暮れの曽爾高原
最初の展望ポイント

最初の展望ポイント

階段を少し上ったところで、最初の小さな踊り場に到着します。ここからは、休憩スペースを振り返りつつ高原のやわらかな稜線を広く見渡せます。私は足を止めて数枚だけさっと写真を撮りました。日が向こうの山に沈んでしまう前に、お気に入りの展望場所にたどり着きたくて少し焦っていたのです。

苦労してでも見たい夕焼け

半分ほど上ったころ、標高の高さがこたえてきました。標高700〜900mでは空気が少し薄くなり、(私のように夕日と競争して階段を駆け上がっているならなおさら)登りはややハードに感じられます。それでも、その苦労の見返りは、何ものにも代えがたいものです。ちょうど地平線に最後の光がこぼれる瞬間に間に合いました。高原は温かな黄金色に染まり、長い影が伸び、風景の美しさをいっそう際立せていました。

Soni Highland at dusk lanterns / 夕暮れの曽爾高原
私のお気に入りの展望スポット。階段を半分少し過ぎたあたりです。

さらに上へ進むこともできましたが、名残惜しくも引き返すことにしました。車に水を置いてきてしまい、無理はしたくなかったのです。それでも心は満たされていました。景色も、夕焼けも、山灯りも――すべてが完璧でした。

Soni Highland with lanterns / 曽爾高原山灯り
山灯りのあたたかな明かりが、なんとも心地よい景色を生み出していました。

宵闇のなかを下って

階段を下りながら、私は自然と歩みをゆるめていました。山灯りは暮れていく空の下でいっそう明るさを増し、道に琥珀色の光を落とします。耳を澄ますと、虫の声、風に揺れるススキのさやめき、ときおり響く鳥のねぐら入りの声――どれも心を落ち着かせてくれます。まるで自然がゆっくり息を吐いているみたいに、穏やかで満ち足りた、そしてゆったりとした時間でした。

車まで戻る道すがらも、美しさは途切れません。想像以上に山灯りが足もとをしっかり照らしてくれていて、暮れゆく高原を安心して歩くことができました。

Soni Highland with lanterns / 曽爾高原山灯り
お亀池の右手に延びる遊歩道

遊歩道を歩く

曽爾高原にはいくつかの遊歩道があり、それぞれ違った表情の高原を見せてくれます。ただし、山灯りで照らされるのはお亀池の周辺の道のみで、夕暮れが近づくとあたたかく心地よい光に包まれます。メインの入口から入ると、左か右かどちらへ進むかを選ぶことになります。右側の遊歩道は、高原の裾を伝うように池の向こう側へと緩やかにカーブしていきます。人が少なく、落ち着いた静かな散策路です。左側の道はベンチのある休憩スペースへと続き、やがて斜面に沿ってカーブする階段へと導いてくれます。どちらを選んでも、最終的には登り口へと合流します。

それぞれに魅力があるので、時間があれば両方歩いてみることをおすすめします。

Soni Highland with lanterns / 曽爾高原山灯り
日が完全に落ちた頃に戻りました。山灯りが道をやさしく照らしてくれます。

ふたたび上へ

車に置いた水を手に取り、気分も新たに、そして好奇心に背中を押されて、もう一度上へ向かうことにしました。山灯りと頭上の星だけに照らされた、夜の高原を見てみたかったのです。今度はペースを落として、夜の空気にどっぷり浸かりながら階段を上りました。

空はすっかり澄みわたり、頭上には息をのむような満天の星。曽爾高原は街明かりから離れ、視界のひらけた高所にあるため、星空観賞にも絶好の場所なのです。眼下には灯籠の灯り、頭上には瞬く星。まるで自分が二つの世界のあいだを漂っているかのようでした。

お気に入りの展望スポットで立ち止まり、しばらくその光景を心に刻みました。そこから見下ろすと、あたたかな光の輪が冷んやりとした闇をたたえるお亀池を取り囲んでいます…まるで高原が燃えているかのよう。写真ではとても伝えきれません。澄んだ空気、凛とした夜、そして高原の静けさが、毛布のように私を包み込みました。

Soni Highland with lanterns around Okameike Pond / 曽爾高原お亀池の山灯り
まるで炎の輪のよう。

完璧な締めくくり

最後にもう一度階段を下って高原を後にしました。名残惜しい気持ちはありましたが、きっとまた戻ってくる――そう確信していました。曽爾高原は、不思議とまた足を運びたくなります――ここにはまだ見つけていない発見や美しい瞬間がいつでも待っているよ、と囁きかけてくれるのです。

車へ向かって歩くあいだ、最後まで山灯りの光に足もとを導かれながら深い安らぎを覚えました。帰ったあとも胸の奥に消えずに灯り続ける、あの静かなぬくもり。そんな余韻がいつまでも残りました。

さいごに

ススキを見に行く、山灯りを楽しむ、あるいは広がる眺望をただ眺るだけでも――曽爾高原は心に語りかけてくる場所です。ぜひ夕暮れに訪れて、星が現れるまで過ごしてみてください。そして水分補給もお忘れなく。計画より長く滞在したくなるはずですから。

山灯り開催時期
9月中旬〜11月下旬 (今年の開催期間はこちらをご覧ください)
住所
奈良県宇陀郡曽爾村太良路
駐車場
800円〜(野口駐車場または曽爾高原ファームガーデン)
アクセス
自動車で: 名阪国道・針I.C.から国道369号線へ入り、45分。
曽爾高原の基本情報