倭姫命の足跡をたどって。伊勢神宮へと続くドライブ旅

Nabari River / 名張川

最近の日本では、国内初の女性首相誕生というニュースが大きな話題を呼んでいます。多くの人が待ち望んでいたこの歴史的な瞬間は、リーダーシップにおける女性の役割について重要な対話を巻き起こしました。それを受け、私は日本のはるか昔の歴史の中で、静かながらも深く、この国のあり方を形作った一人の女性について思いを馳せていました。

現代の政治リーダーたちが現れるずっと前、そこには古代の王女、倭姫命(やまとひめのみこと)がいました。彼女の洞察力と決断は、日本の心の拠り所を導く上で極めて重要な役割を果たし、2,000年近く続く伝統を築く助けとなったのです。

伊勢神宮の礎を築いた古代の皇女、倭姫命

今から約2,000年前、倭姫命は長く神聖な旅に出ました。彼女の使命は、祖神であり太陽の女神である天照大御神を祀るための、永遠の地を見つけ出すことでした。

彼女は大和を出発し、近江や美濃といった地域を経て、ついに美しい伊勢の地にたどり着きました。そして現在の伊勢神宮に天照大御神を祀ったのです。彼女のこの旅があったからこそ、伊勢は日本の心のふるさととなりました。

興味深いことに、彼女の歩んだ道はこの地域、東奈良名張を通っています。今日でも、この穏やかな山間の風景の中には、彼女の物語にまつわる静かな史跡が点在しているんです。

倭姫命が伊勢神宮が現在の場所に鎮座する以前、旅の途中で立ち寄り、一時的に天照大御神が祀られたと伝えられる場所は「元伊勢」と呼ばれています。各地に大切に守り継がれている元伊勢の伝承地は、いわば伊勢神宮の原点とも言える神聖な場所なのです。

今回、私は倭姫命が辿ったルートの一部をドライブし、最終目的地である伊勢へと向かいながら、それらの隠れた名所を訪ねてみることにしました。

Yamatohime-drive
大阪からのルートの例。一部有料道路を含みますが、4〜4時間半かかります。(クリックでGoogleマップに飛びます)

旅の始まり:東奈良

阿紀神社

まず最初に向かったのは、奈良県宇陀市にある阿紀神社(あきじんじゃ)です。この神社は、倭姫命が天照大御神のための理想の地を探す旅の途中に、長く滞在した場所として伝えられています。実際、ここでの彼女の祈りが神社の起源であると言われています。

Aki Shrine
神社への道は非常に狭いため、運転に自信がない方は「かぎろひの丘万葉公園」に駐車して歩くのがおすすめです。公園から神社までは徒歩5分ほどです。

境内はそびえ立つ杉の木に囲まれ、静寂な空気に囲まれています。この神社でひときわ目を引くのが能舞台です。この能舞台では、毎年6月に「あきの螢能」という特別な公演が行われ、蛍の幻想的な光の中で物語が繰り広げられます。柔らかな光が舞う夏の夜の光景を想像するだけで、思わず息を呑んでしまいますよね。

私は、自然に囲まれた静かな神社の境内に立ちつつ、旅の途中の倭姫命のことを思い浮かべました。彼女もこうやってやがて見出すであろう女神の神聖な住まいに思いを馳せていたんでしょうね。

あきの蛍能 / Akino Hotaru Noh
あきの螢能

四社神社

阿紀神社を後にし、さらに東へ車を走らせると、御杖村(みつえむら)という穏やかな山里に入ります。この地域全体が倭姫命が長い旅の途中に立ち寄った場所とされ、数々の伝承が語り継がれています。

御杖村での最初の目的地、四社神社(ししゃじんじゃ)へ向かいます。国道369号線を外れ、静かな道に入ると、開けた田畑と優しい田舎の風景が出迎えてくれました。

Shisha Shrine
神社の手前で道が少し狭くなりますが、到着すれば小さな駐車場があるので安心してください。

鳥居をくぐり、静かで品格のあるお社に参拝した後、境内にある井戸へと向かいました。伝説によれば、この井戸は倭姫命と深い関わりがあり、彼女はここで手を洗い、口をゆすいで、旅の疲れをリフレッシュしたと言われています。

井戸 / The well
この井戸で倭姫命は手を洗ったといわれています。

また、この神社では毎年10月に特別な伝統行事があります。伊勢参りにちなんだ獅子舞が奉納され、大人の肩の上に子供が立って踊る姿が披露されます。活気にあふれた微笑ましい光景は、この小さな村の神社と伊勢の偉大な伝統との、古く深い繋がりを象徴しています。

Shisha Shrin Lion Dance / 四社神社獅子舞

御杖神社

Mitsue Shrine / 御杖神社

次に訪れたのは御杖神社(みつえじんじゃ)です。伝説によると、倭姫命はこの地を天照大御神を祀る候補地としてあげ、その印として自分の杖をここに残したとされています。そしてなんと、御杖神社はその杖をご神体としてお祀りしています。

それだけではありません。もうピンときた方もいるかもしれませんが、その杖こそが、御杖村という村の名前の由来なんです。この神社がこの村にとってどれだけ特別なのかわかりますよね。

村のマスコットキャラクターが魔法の杖を持っているのも、この伝説にちなんだ遊び心あふれる演出で、とても素敵ですよね。

Matsuri at Mitsue Shrine / 御杖神社秋祭り
秋祭り

普段は里山の静寂の中に佇む神社ですが、11月上旬の例秋祭ではその雰囲気が一変します。

この日、境内は信じられないほどのエネルギーに満たされます。地元の人々が声を響かせながら太鼓台を担いで奉納する様子は、空気が震えるほどの熱気です。普段の静けさとは対照的な、地元の人の心と魂が躍動する瞬間を垣間見ることができます。

御杖神社を訪れた後は、近くにある道の駅 伊勢本街道御杖で一休みすることをおすすめします。ここでは、村のマスコット「つえみちゃん」の杖をイメージした、「杖チュロス」を味わうことができますよ。
Tsuemi Churros

姫石明神

Path to Himeshi Myojin / 姫石明神への小道
車は丸山公園の前に停めることができます。公園に向かって左側の道を進み、そのまま公園の左端に沿って歩いてください。すると間もなく、森の奥へと続く細い小道が見えてきます。

御杖神社から車で数分のところに、独特の神秘的な雰囲気を持つ隠れた名所、姫石明神(ひめしみょうじん)があります。

ここは、春の山桜や夏の蛍で有名な丸山公園のすぐそばにあります。こんもりとした丘の脇にある階段状の短い小道を下り、森の奥深くに足を踏み入れると…突然空気が変わるのです。ひんやりとして、驚くほど静まり返った緊張感のある空気に包まれます。

Himeshi Myojin / 姫石明神
御神体は、赤い鳥居の向こうにある女性の臀部に似た形をした岩

影の中へ進むと、シンプルな赤い鳥居と、苔に覆われた大きな岩が現れます。この岩が女性のおしりの形に似ていると言い伝えられていることから、倭姫命がここで婦人病の快方を祈願したという伝説が残っています。

静寂の中に立ち、私はふと過去とのつながりを感じずにはいられませんでした。古代の女性たちも、たとえプリンセスであった倭姫命であっても、現代の私たちと同じように自分の体や健康について悩んだり祈ったりしていたのだろうな…。

三重へ:伊賀の国、名張を探索

山を越えて忍者の里へと向かった倭姫命と同じように、私も奈良を離れ、伊賀地方の一部である名張へと北上しました。

だんだんと交通量が増え、名張の市街地に到着。東奈良名張の鉄道の拠点である名張駅前(西口)のコインパーキングに車を止め、名張駅の西側にある旧市街を6〜7分ほど散策しながら次の目的地へ向かいます。レトロな雰囲気のこのエリアは、かつて奈良と伊勢を結ぶ街道のひとつ「初瀬街道」の宿場町として栄えました。現在では「旧町」と呼ばれて親しまれていて、趣のあるお店やカフェが点在します。

Old Town Nabari / 名張旧町
レトロな雰囲気の「旧町」は、私のお気に入りです。

宇流冨志禰神社

Urufushine Shrine / 宇流冨志禰神社

名張川沿いに位置する宇流冨志禰神社(うるふしねじんじゃ)は、とても格式の高い、歴史のある神社です。記録によると、倭姫命もこの地を訪れたとされています。川のせせらぎを聞きながら、「ここはどうかしら?」と景色を眺めていた彼女の気持ちを想像してみたりしました。

こちらの神社も、400年近い歴史を持つ秋祭りでは最高潮に活気づきます。松明(たいまつ)や提灯を掲げた行列が町を練り歩き、神社では獅子舞が奉納され、翌日には神輿が街を巡ります。

名張の人々にとって、この神社は日々の生活の中心です。家族が集まり、子供の健やかな成長を祈り、街の長い歴史を次の世代へと語り継いでいく大切な場所なんですね。

Torches at Urufushine Shrine
秋祭りで境内に灯された松明

蛭子神社

宇流冨志禰神社から名張川沿いに西へ5分ほど歩くと、蛭子神社(えびすじんじゃ)に到着。こちらも倭姫命が立ち寄ったとされています。

Yokaebisu / 八日戎
七福神の舞

宇流冨志禰神社から名張川沿いに西へ5分ほど歩くと、蛭子神社(えびすじんじゃ)に到着。こちらも倭姫命が立ち寄ったとされています。

小さな神社ですが、毎年2月8日の「八日戎(ようかえびす)」には多くの参拝客が訪れます。見どころは、商売繁盛を祈願して奉納される「七福神」の舞。大判小判をあしらった縁起物「吉兆(けっきょ)」を買い求める人々の熱気に包まれ、「春を告げる祭り」として地域の人々に愛され続けています。

さて、この後、名張を離れます。倭姫命のルートを厳密に辿るのではなく、車でより直接的なルートを通って伊勢を目指すことにしました。

4〜4.5時間はあくまで運転時間です。各所を探索するのでもっと時間がかかります。ストレスなく旅を楽しむなら、名張で1泊するのもよいですね。( 名張の宿泊リストはこちら

ついに、伊勢神宮に到着

Ise Jingu Naiku / 伊勢神宮内宮
天照大神がお祀りされている内宮。江戸時代には日本中からおかげ参りの参拝者がここを訪れました。

伊勢神宮には、外宮(げくう)と内宮(ないくう)があります。倭姫命が最終的に天照大御神の永遠の住まいとして選んだのは、五十鈴川のほとりに位置する内宮です。

時間があれば両方の参拝をおすすめしますが、そのほかに、「倭姫宮(やまとひめのみや)」にもぜひ立ち寄ってみてください。ここは、倭姫命自身をお祀りしている内宮の別宮です。「倭姫文化の森」と呼ばれる穏やかなエリアにあり、その静かで広々とした雰囲気はリフレッシュするのに最適な場所。長旅の疲れを癒してくれることでしょう。

Yamato-hime-no-miya / 倭姫宮
倭姫宮