11月、午後6時半。すでに真っ暗。私たちはある渓谷にいます。ヘッドライトで川を照らし、岩の下を捜索中。足にまとわりつくような川の水圧と冷たさ。足が濡れていないのはウェーダー(胴付長靴)のおかげ。そしてあと少しで、一番近い温泉旅館、対泉閣の温泉で温まることができる…。
温泉旅館で3日間のリトリート
対泉閣での3日間のリトリートでは、オオサンショウウオについて学ぶだけでなく、瞑想、ヨガ、ハイキング、忍者修行体験、そして「ミシュランガイド三重」で星を獲得した旅館で食事が振る舞われます。
対泉閣は、ヴィーガン(ベジタリアン)料理を提供している日本でも数少ないパイオニア的旅館です。次々とテーブルに運ばれてくるコース料理は、食材が芸術的に盛り付けられていてどれも目を引くものばかり。どの料理も繊細な味わいで口当たりも様々。地元産の有機野菜を使うことで、季節と土地の恵みに感謝の意を表しています。夕食には、エリンギのグリル、高菜の胡麻和え、ズッキーニと茄子の味噌グラタン、松茸の天ぷら、栗ご飯などが振る舞われましたが、最も印象的だったのは、ヴィーガン寿司の盛り合わせです。
対泉閣は、三重県名張市にある赤目四十八滝の近くにあります。赤目四十八滝はかつての忍者修行場で、ここでいう「四十八」とは、「たくさんの」という意味だそうです。
怖いもの知らず!いざオオサンショウウオを探しに
この日の夜には、専門家が行うオオサンショウオの夜間の学術調査に同行するツアーに参加させていただきました。現代の忍者修行生というよりは、さながら好奇心旺盛な冒険家。平均体長1メートルもある、傷つきやすく内気な水生の肉食動物、オオサンショウウオを探し求めます。オオサンショウウオの体は完璧にカモフラージュされているため、見つけるのは至難の業。それにしてもなぜ夜に探すのでしょうか?オオサンショウウオは夜行性なのです。エサを求めて隠れ穴から出てくるかもしれないし、出てこないかもしれません。見つかるかもしれないし、見つからないかもしれません。このような不思議な生き物を探すのは夜間、というのがまた一層冒険心をくすぐります。
まず、着替えのために日本サンショウウオセンターの建物に入ります。入り口では昼間はハイキング客にチケットが販売されていて、中では、清潔で明るくエアレーションの効いた水槽の中でたくさんのサンショウウオが暮らしています。水槽の上には電光掲示板があり、飼育されているサンショウウオの情報も見ることができます。この生き物は驚異的としか言いようがなく、自然の生息地で見ることができるとしたら、それはとても貴重です。見たいですよね?好奇心に従ってください!
ウェーダーには、お腹や足、厚手の衣服の上から身につけられるように、さまざまなサイズがあります。ウェーダーの下は、セーター、ダウンジャケット、フリース素材の靴下、厚手のトラックパンツで快適。ウェーダーは父が釣りで使っていたような分厚いゴム製ではなく、薄くて柔軟性があるので、凸凹した川底を歩くのに問題はありませんでした。
私たちがウェーダーとヘッドライトを身につけっていると、ガイドさんがやってきました。彼は生物学の研究者です。私たちはガイドさんについて川に下りていきます。そして彼は大きな岩の下を探してくださいとアドバイス。私は「あ、もしかして」と思ったのですが、それはサンショウウオの尻尾のような棒でした…。イースター・エッグ探しみたい。でももしオオサンショウウオを踏んでしまったらどうしよう。長靴で傷つけてしまうかもしれないし、逆にオオサンショウウオが鋭い歯で長靴に穴を開けてしまうかもしれない。柔らかくてつるつるした生き物のようなので、踏んでしまうかもしれない…。もしそうなったら、お互いにとってやっかいなことになります。そういえば、私の息子が持っているオオサンショウウオのぬいぐるみは踏むとキーキー鳴きますが、実際のオオサンショウウオは静かなんだそうです。
川の深さはほとんど膝までで、ところどころ流れが速い場所があります。私たちは互いに声を掛け合いながら、バシャバシャと歩いていきます。メンバーは、私たち“冒険家”8人とビデオカメラマン。ガイドさんが上流の方にすすむと、私も渓流をすすんでついていきます。
すると、「見つけた!」とガイドさんの声。私たちはすぐにその周りに輪になって集まり、ヘッドランプの光を集めてこの大きな生き物を照らしました。どうやら、すでにタグを付けられた個体で、研究者であるガイドさんは見覚えがあるようです。私たちのような一般の人がオオサンショウウオに触れることは違法です。それでも、目の前にいるのを見るだけでもすごいことです。
在来種のオオサンショウウオは保護されているため触ることは違法ですが、ガイドさんは特別な許可を持っていて、扱い方も訓練を受けています。川から戻ったあと、再び日本オオサンショウウオセンターへ。そこでガイドさんが、両生類では最大といわれているオオサンショウウオをそっとすくい上げて見せてくれました。おそらく生まれたばかりの赤ちゃんと同じくらいの重さで、足の指が欠けているのを見せてくれました。指はまた生えてくるそうです。オオサンショウウオの足の裏は白っぽくてベトベトしています。次に、ちょいとひっくり返して、お腹が見えるようにしてくれました。おそらくオスでしょうが、それがはっきりするのは9月と10月の繁殖期だけだそうです。ちなみに、在来種か外来種かは、DNA検査をしなければ見分けがつきません。このオオサンショウウオはすでにDNA検査済で、非在来種と確認されているそうです。
外来種や交雑種のオオサンショウウオは法律で保護されていないので、ツアー参加者が触っても大丈夫です。触ってみたいですか?オオサンショウウオを触ると、ヌメヌメした体液がにじみ出てくるそうです。私たちは近づいて匂いを嗅いでみました。この、危険を感じると出す体液は、名前の由来である山椒の葉のような匂いがするそうです。冷たくて、ぬるぬるして、でこぼこした背中を人差し指で触ってみる私。このスライムのような体液は人体に無害ですが、もし触る場合はウェットティッシュを持参することをお勧めします。
オオサンショウウオについてもっともっと知りたくなってきました。明るい光や私たちが興奮して大きな声を出すことによって、ストレスを与えるのだろうか。観光や水槽での観察によってオオサンショウウオの生息の質が下がるのか、それとも飼育下でも70年ほどの寿命を全うできるのだろうか…。野生のオオサンショウウオは、今シーズンに産み落とされた卵はもうすべて川で孵化したのでしょうか?中国オオサンショウウオはどうやって日本にやってきたのでしょうか。日本のオオサンショウウオが少なくなったから、中国のオオサンショウウオが持ち込まれたのかもしれないですね。たぶん、人々が食べていたから。
いろんなことを考えましたが、この日は、生き物を殺したり、搾取したりする必要のない夕食でよかった、とほっとしたのでした。
- 関連リンク
- 赤目四十八滝公式ホームページ
- 対泉閣公式ホームページ