神野山は古代人が作った地上のプラネタリウム?—奈良・山添村

神野山山頂からの眺め
神野山山頂からの眺め

「県立月ヶ瀬神野山自然公園」の一角を占める神野山(こうのやま・標高618.8m)は、なだらかに裾野を広げる美しい円錐形の山。周辺には高い山がなく、山頂の展望台からは、大和、伊賀を眺望できる360°のパノラマが広がっています。初夏にはツツジ、秋は紅葉が楽しめる行楽地で、アクセスのよさもあり(名阪国道 神野口 I.C.から車でおよそ6分)大阪や名古屋から年間5万人もの行楽客が訪れます。関西屈指の星空スポットとしても知られ、多くの天文写真愛好家も訪れます。街から差し込む明かりのなかった古代、漆黒の中で全天から降り注ぐ星空は想像を超える美しさだったことでしょう。

山腹に広がる4000年前の星座

イワクラMAP
山添村観光協会:イワクラMAPより

2002年、山添村が総合計画のために調査した折、鍋倉渓(なべくらけい)に沿って巨石が点在していることがわかりました。しかも、それらの岩と鍋倉渓の位置関係が、約4000年前の天の川と蠍座の赤い星アンタレス、夏の大三角形を構成するアルタイル、デネブ、ベガ、そして北極星と相当していたのです。4000年前といえば縄文時代、古代の人々は、星の模して巨石を地上に配置し、信仰の対象としていたのでしょうか。それとも、エジプトのピラミッドやイギリスのストーンヘンジなど世界の巨石遺跡と同様に天体観測の施設だったのでしょうか。そんな想像をめぐらせながら、紅葉シーズンを前にした静かな神野山で巨石を巡りました。

岩石の川・鍋倉渓

鍋倉渓

神野山の山腹には、幅約25m、長さ約650mにわたって、1m〜3m近い物まで大小さまざまなゴロタ岩が覆い尽くす水が見えない渓流「鍋倉渓」があります。角閃斑レイ岩 (かくせんはんれいがん)が集積する地質学的にも珍しい景観と言われています。

遥か上流までの伸びる岩の川の様子を動画でもご覧ください。

天の川コースで鍋倉渓に沿って山頂へ

天の川コース・鍋倉渓
岩の観察は、下草が枯れる晩秋から冬がベストシーズン

山頂までは、歩きやすい舗装道路を利用する「てんまるコース」、山頂までの最短(10〜15分)で登れる「めえめえコース」、そして鍋倉渓に沿って巨石を探索しながら登る「天の川コース」があります。
天の川コースは途中まで登山道はウッドデッキが整備されていますが、早朝や雨の後などは滑りやすいので足元には十分ご注意を。

竜王岩/さそり座の心臓、アンタレス

竜王岩
竜王岩は、対岸の林の根元に
竜王岩
敷地の外から撮影させてもらいました

鍋倉渓を登っていくと、竜王岩の看板が目に止まります。岩は対岸、宗教団体の敷地内にあります。植え込みの間からしめ縄が巻かれた岩を垣間見ることができます。さそり座の心臓に位置する赤い星アンタレスを写しているそうです。

天狗岩/アルタイル

アルタイル は、ひこ星、または牽牛星 (けんぎゅうせい)とも呼ばれる七夕でお馴染みの星。わし座で最も明るい星です。鍋倉渓は、山添と伊賀の烏天狗が争って、伊賀の烏天狗が投げ込んだ岩でできたとか、村人が修行して烏天狗になったとか、烏天狗にまつわる多くの伝説があります。山添村の烏天狗は、神様の使い、山の主、生き物の守護者として敬愛されてました。この岩は、そんな烏天狗を象徴する岩なのです。

天狗岩
ポッカリと割れた岩の間から見える丸木橋
天狗岩
写真に撮ると、岩の間に、どんずりぼう(えべっさん、えびす)の霊が現れるという言い伝えも。写ってますか?
天狗岩
天狗の顔に見えるのは気のせいかな?

王塚/デネブ

山頂近くのこんもりとした森の中に王塚と呼ばれる墳丘があり、女神「熯速日の命(ひのはやひのみこと)」の悲しい伝説が残っています。

王塚
山頂のこの部分だけが森になっています

女神はあまりにも美しいため、男の神々にストーカーされ、それを嫌って、住まいをあちこち替えて、最後にたどり着いたのが神野山の弁天池のほとりでした。

王塚
右手には鳥居があり、その奥に祭壇があります。

ところが、男神たちはここまで追いかけてきたので、女神はたまりかねてオロチに変身。男神たちはこのオロチが女神であるとは知らず斬り殺してしまいます。嘆き悲しんだ男神たちは神野山頂に墓を造り、お祀りしたのが王塚です。山一面に咲くベニツツジは、この清らかな女神の血の色であると伝えられています。この王塚は「はくちょう座」の尻尾のところに輝く白い1等星、デネブを表していると考えられています。

大塚
女神の愛らしさを現すかのような可愛い形をしています

八畳岩/ ベガ

八畳岩
岩の端は切り立った断崖。足元に御用心

八畳岩とは控えめ。登山道とほぼ同じ高さにある頂は8畳くらいだけれど、切り立った斜面はゆうに50畳はありそう。高さ7m、幅10mある巨大な一枚岩です。頂上部分にあるたくさんの切れ込みは、天狗の足跡とか、引っ掻いた爪跡とか言われています。

八畳岩
下から見ると大きさが実感できます

この巨岩が現す星は「こと座」で最も明るい星ベガ。 七夕のおりひめ星(織女星・しょくじょせい)のことですね。

北斗岩/ ツバン

北斗岩
めえめえ牧場の一番奥の駐車場から徒歩数分のところにあります

現在の北極星は、こぐま座のアルファ星という2等星です。地球の地軸はコマのように回転しており、地軸の延長上に見える星は時とともに変化していきます。2002年の調査で、紀元前10万年から西暦10万年までの星空を高精度で再現する、天文シミュレーションソフトウェア、ステラナビゲーターで調査したところ、北斗岩が示すのは4000年前に北極星だった「りゅう座」のアルファ星のツバンと一致したのです。山添村の巨石ロマン。イワクラ(磐座)研究がスタートした記念すべき岩なのです。

北斗岩
古代ロマンの起点となった北斗岩

まだまだ点在する巨石構築物

烏天狗
山添村のアイドルの烏天狗

神野山にはまだまだ発見されていない巨石があり、今日巡った巨石とともに、全天空を写す地上のプラネタリウムを形作っていたという説もあります。布目川、遅瀬川、名張川、笠間川等の流域で、発掘調査によって縄文時代の遺物が数多く出土しており、西日本における古代の先進地域だったと想像されます。その近くには、高さ16mもある桝形の巨石、牛ヶ峯桝型岩 。直径7mの球形の巨石、長寿岩。長さ10m、幅6m、高さ3m 主石の周りに数多くの岩が配置された船岩などの巨石構築物が点在しています。

イワクラはわかりにくい場所や、近づきにくい場所にありこともあります。訪問する前に山添村観光協会で情報収集してはいかがでしょう。また、イワクラをはじめ、山添村の縄文遺跡や社寺、文化財、史跡など、ボランティアの方が、観光ガイドをしてくれるとのこと、地元の歴史や伝説、風習など聞けて、旅が充実すること請け合いです。

掲載写真はすべて筆者撮影

山添村観光協会
公式ホームページ
〒630-2344 奈良県山辺郡山添村大西151/TEL:0743-85-0081
マップ、パンフレット
ボランティアガイド
リンク
フォレストパーク神野山
参考
イワクラ・巨石の声を聞け(イワクラ学会・編著 遊絲社)
神野の民話(神野山天狗研究会発行)