漆部郷(ぬるべのさと)曽爾村で金継ぎ体験

みなさんは「金継ぎ」って聞いたことありますか? 「金つくろい」ともいいます。

ピンと来ない方、この写真のような、金色のラインが入った器、見たことありませんか? お皿やお茶碗などの陶器の割れたり欠けたりしたところを修復する日本の伝統技術で、金粉を蒔いて仕上げます。

金継ぎされた器
この写真はイメージです (Photo by riyat)

金継ぎは、海外でも「Kintsugi」として知られています。欠点を隠すのではなく個性として受け入れ、仕上がったものは元のものよりも美しく強くよみがえる——不完全なもののなかに美を見出す日本独特の「侘び寂び」の精神が外国人を引きつけるようです。

もちろん最近は日本でも人気で、ワークショップも都市部などを中心に、各地で行われているようです。みなさんの身の回りにも金継ぎしてきたよという人、いるのではないでしょうか?

かくいう私も、前々からやってみたいなと思っていました。そんなある日、「東奈良名張エリアで金継ぎの体験ができるところがあるよ」という情報を聞きつけたので、割れたりヒビが入ったりした器を持ってさっそく挑戦しにうががいました。

漆発祥の地で学ぶ金継ぎ

このサイトでよくブログを書いているMayさんと一緒に訪れたのは、古民家を改装した素敵なコミュニティ施設「Urushi Base Soni NENRIN(ねんりん舎)」です。「ねんりん舎」は、漆(うるし)業発祥の地とされる奈良県曽爾村にあり、漆文化や技術の復興活動の拠点となっています。

Urushi Base Soni NENRIN(ねんりん舎)

金継ぎなのに、なぜ漆?

漆と聞いて、漆器のお椀がぱっと頭に浮かんだのは私だけではないはず。金粉で装飾するところばかりフィーチャーされがちな金継ぎ、実はその華やかな工程にたどり行くまでには、漆を使った地道な作業があるのです。知ってましたか? 恥ずかしながら私は知りませんでした…。現代では、漆の代わりに合成樹脂などを使う簡易金継ぎもありますが、私が今回教えてもらうのは、どうやら伝統的金継ぎのようです。

日本産漆
国産の漆

まず説明を受けたのは、漆のお話。国産の漆や中国産の漆などいろんな種類があって、テクスチャーも違うのだそうです。お値段はもちろん、用途も漆の種類によって変わってきます。

漆
漆は貴重なので(お値段も高いので)ほんの少しずつ使います

ちなみに曽爾村では地元でウルシの木を育てていて、曽爾村産の漆塗料も取れています。

うるしを染み込ませた紙
曽爾村でとれた漆を染み込ませた紙。このように木によっても色が違う

天然の万能素材、漆

漆はとても優れた塗料で、その役割は多岐にわたります。壊れた器を修理するのにも昔から大活躍してきました。

どうやって?

というわけで、このブログでは、そんな漆の活躍ぶりを簡単にご紹介します(これから書く内容は私の体験に基づいたものであり、金継ぎの詳細な工程を説明するものではありません)。

漆で前処理

金継ぎの最初のステップから漆が登場します。生漆(きうるし)を割れた断面に塗ったり、ひびに塗ったりして前処理をします。この作業自体、そんなに時間はかからないのですが、何日かおいて乾かさないといけないので第一日目はこの作業で終わってしまいました。

前処理
割れた断面に生漆を塗るMay。漆を扱うときはかぶれ防止のため必ず手袋をします

接着剤の強力な助っ人、漆

小麦粉を混ぜた漆を断面やひびに塗ったりして接合します。私が一番感心した漆の役割は、接着剤の助けになるということ。のりに漆を混ぜることで、接着の強度が上がるそうです。他の素材と合わせることによってさらにパワーを発揮するんですね。

接合したところ
割れていた壺を接合できました
ひびが入ったお茶碗
漆を塗って拭き取ったところ。ひびが入ったお茶碗にも漆がしっかり染み込んでいるようでひと安心(Akiko)

欠けたところを埋めるパテ

私がもう1点持ってきた器を修理します。友人の結婚式の引き出物でいただいた大きな器は、何か所か欠けてしまっています。

パテを作る

まず、砥の粉(岩石を粉にしたもの)などと混ぜます。この漆のパテで、欠けてしまったところをパテで埋め、指で形を整えます。

欠けをうめる
器の縁の欠けたところを修理(Akiko)

その後、1週間以上寝かせて乾かし、ペーパーサンドで削ったりして形を整えます。ちなみに、漆は湿気で乾くそうです。なんとも不思議な素材ですね。

強度を高める

漆を塗る→何日か寝かして乾かす→研ぐを何度か繰り返します。これで強度が増すそうです。樹液がこんなに強く接着するなんて不思議ですね。そしてそれを発見した昔の人ってすごい。

漆を塗る 漆を塗る

ここまで来てお気づきだと思いますが、伝統的な金継ぎは時間がかかるのです。その日どれだけ自分がヒマであっても、先の工程へはすすめません。漆の都合ですべてがすすみます。ここで私は気付かされました。少しずつ進んでいく金継ぎを通し、昔の人のようにゆったりとした時間の流れを愉しめばいいのです。現代では人工的に手を加えて時間軸を早めたりずらしたりしてできた産物にあふれていますが、本来、人は自然の恩恵を受け、自然の時の流れとともにゆっくりと暮らしてきたのです。

粉を蒔く前も漆

さて、いよいよ粉をまぶす工程の一歩手前。金色を鮮やかに出すために、赤い漆で地塗りします。

地塗り 地塗り

地塗り

いよいよ粉蒔き

待ちに待った、キラキラの粉をまぶす工程です!ここまで長かった!途中、中断してしまったので、始めてから1年以上も経ってしまっています。

金継ぎに使う粉

今回は、真ちゅう、すず、銀の3種類の粉が用意されていました。そう、金粉はお高いのです…。真ちゅうは金色、すずは銀色、銀は白っぽい仕上がりになります。

粉蒔き

金継ぎ・仕上げ
真ちゅう粉を蒔いたMayさんの壺。見た目、金と変わりませんね!

粉を蒔き終えたら、またまた何日かおかないといけないので、この日の作業はここで終了。

粉を定着させるのにも漆が活躍

そして1週間後。最後の漆の出番です。粉を蒔いた部分にも、漆をコーティングするように塗っていきます。粉を定着させるはたらきがあるそうです。

できあがり

塗り終わったら何日か乾かし、磨き粉などで磨いて仕上げます。さらに3ヶ月ほど寝かせば、晴れて食器としても使えるように。

できあがり

漆のすごさ、伝わりましたか? あなたも伝統的金継ぎ、やってみたくなったのではないでしょうか。

実際には、ここで紹介した作業の他にもっと多くの磨いたり削ったりする工程があります。時間を短縮した金継ぎもいいけれど、漆の力を最大限に生かした、天然素材100%の伝統的金継ぎ、機会があればぜひトライしてみてください。