竹あかりでまちづくり—赤目竹あかりSDGsプロジェクト

赤目市民センターの竹あかり

こころをつなぐ竹あかりの、ふたつのストーリー

ある晩秋の早朝、名古屋在住の私は、近鉄アーバンライナー(近鉄による、名古屋—大阪難波間を結ぶ特急列車)で一路名張市へ向かいました。

目的は、竹あかりプロジェクトとライトアップを見に行くこと。

実はこの夏私も、居住する名古屋市の東の端の町で竹あかりのイベントを開催しました。そのことを知っている友だちから、「名張も竹あかりプロジェクトに取り組んでいるんだよ、来てみない?」と誘われたのがきっかけでした。

名古屋から名張へ

昨年3月から6月まで、緊急事態宣言の発令に伴って子供達は一斉休校となり、学校が再開された後も感染対策優先で、私達大人が当たり前に過ごしてきた時間の記憶とは全く違う、沢山の思い出を作る機会を失ってしまいました。

大人である私達も、ソーシャルディスタンスの維持のために、仕事のしかたや生活様式の変化を求められ、すぐそばにいる人との距離も遠くなる経験が続きました。次の時代を担う子供達のためにも、長い時間をかけて積み上げてきた地域の大切なつながりをどうにか別のカタチで継続する方法がないものかと思うようになりました。

名古屋「七夕竹あかりの夕べ」
筆者の居住地近くで行った「七夕竹あかりの夕べ」

そこで、みんなが心を一つにして繋がることができるものは…と、何気なく名張に暮らす母に話したところ、「竹あかりいいんじゃない?」という一言。母の言葉をヒントに、この夏名古屋都市センターの助成を受けて、『自分たちの町は自分たちで灯す』をスローガンに「七夕竹あかりの夕べ」を開催することができました。イベントは、お年寄りから小さな子供までたくさんの住民の方が関わって、いつもの公園を光の祈りの場に変えた、心に残るひとときとなりました。

8月のお盆に灯した竹あかりは、地元のタウン誌の表紙や名古屋市のまちづくり新聞にも取り上げられ、自分たちの想像をはるかに超えてひとり歩きを始めました。

竹あかりでSDGs

そしてついに県境を越え、名古屋から1時間半。三重県名張市の近鉄・赤目口駅前のレトロな喫茶店でお会いしたのは、竹あかりでまちづくりをしている「赤目竹あかりSDGsプロジェクト」のリーダー、瀧野真治さんでした。

赤目口駅前のレトロな喫茶店で

伊賀忍者の子孫という彼は、約10年前に故郷の名張市に戻って以来、ふるさとの魅力に改めて気づく中、竹林が荒れている現状を知ったそうです。「竹を利用してまちの人がそれぞれの得意分野でコラボすることで、なにか新しい活動ができるのではないか」と、地元の仲間とともにご自分のルーツも含め、自然や歴史、文化などの研究を始めたそうです。

2020年から名張市と「名張市エコツーリズム推進協議会 」が取り組んでいる「なばり竹あかりSDGsプロジェクト 」の実行委員として参画し、今では恒例の年間イベントとなった赤目四十八滝の竹あかりライトアップ 開催にかかわった瀧野さん。今度は赤目四十八滝だけでなく、地元でもあるその周辺の赤目地区も竹あかりで灯したい、そして竹あかりでまちの人どうしのつながりを作りたい、と2021年4月に「赤目竹あかりSDGsプロジェクト」を立ち上げることとなりました。

Akame 48 Waterfalls Bamboo Lantern Illumination 2020
携わった2020年の赤目四十八滝での竹あかりライトアップ

お話の中でとても興味深かったのは、その昔、赤目地区を含む伊賀の国の広い範囲が東大寺の荘園で、それを守る豪族が多数存在していたこと、また、取り囲む山々はかつて山岳信仰と仏教が結びついた修験道の修行の場であったことでした。

瀧野さんが竹あかりの材料を調達するために山へ入る時は、必ず手首に数珠を巻いて山の神様にご挨拶をしてから足を踏み入れるそうです。山のあちこちに古くから置かれた不動明王の石仏が目を凝らして見張っているからね…なんてお話を聞くと、私達は今、これまで自然をないがしろにしてきた暮らしを見直すとても重要なターニングポイントに立っているのかな、という思いがよぎります。


プロジェクトメンバーの方々のまちづくりに寄せる熱い想いと、名張、特に赤目地区の歴史の濃さ…いつまでもお話を聞いていたい、そんなふうに思った瀧野さんのお話でした。

力を合わせてみんなで希望のあかりを灯す

作業スペース、柏原北集会所

午後からは、竹あかり作りの作業スペースのある柏原北集会所へお邪魔させていただきました。その日は「ミントの会」という女性会の皆さんが竹あかり作りをされていました。

そのスペースは、元は農作業のための倉庫だった建物を地域の方が提供してくださったそうで、住宅しかない団地で竹あかり作りのための竹の保管や作業場の確保に四苦八苦していた私にとっては、ディズニーランドよりも魅惑の空間でした。

広々とした竹あかりづくりの作業場

1年前に切り出され、長いまま横倒しで乾燥・保管された竹。

ドラム缶を利用した竹のアク抜き装置

製造業の大企業をリタイアされた方が、使わなくなったドラム缶を利用して作った竹のアク抜き装置。いつでも作業にかかれるように出したままの電動丸鋸などの工具類…本当に羨ましい限りです!!

数台置かれた常設の広々とした作業台では、様々な年齢の女性と小学生の男の子が、電動ドリルを握って竹筒と格闘している真っ最中でした。

30cm程にカットされた型紙に沿ってドリルで穴をあける
30cm程にカットされた型紙に沿ってドリルで穴をあける

竹あかりづくりをする女性

無心に竹と向き合うこと数十分。
全ての穴を開け終わってライトを灯した時の「わあ〜っ」という歓声と笑顔は、自分の町でも見た光景と重なって、私まで胸が熱くなりました。

完成した竹あかり

完成した竹あかり

最後に、「赤目まちづくり委員会 」の亀本会長が「暗い世の中に、みんなで力を合わせて希望のあかりを灯しましょう」とご挨拶されました。そのメッセージは今でもしみじみ心に響いています。なぜなら私達も全く同じ想いでこの夏を駆け抜けたからです。竹あかりが結んでくれたご縁に本当に不思議を感じます。

作業が終わってあいさつ

赤目地区の竹にまつわる活動は、今後は竹チップの販売や支那ちくの製造など、何か町に収益を生むようなプロジェクトを模索しているそうです。自然を壊すのは人間の仕業ではあるけれど、それを上手に利用することで、自然を守り維持する知恵を出すのもまた人間なのだ…という事を感じた名張・赤目地区での出会い。導いてくれた竹あかりに感謝。

赤目市民センターの竹あかり
赤目市民センターの竹あかり