クリエイターが集まる村、東吉野村の工房を訪ねて

自然と陶芸と国際交流と

夏の名残がまだ少しある9月のある日、とある工房を訪れるため、東吉野村へと車を走らせました。

奈良県東吉野村は、吉野郡に属していて、東奈良名張地域の中でもひときわ“山奥感”のあるとても個性的な村です。吉野杉の産地として知られているように林業がさかんで、村を流れる高見川の水は澄み切っていてすごくきれい。そんな自然豊かな東吉野村にはクリエイターを惹き付けるなにかがあるのでしょう、最近村には様々な活動をしている方々がけっこういらっしゃいます。何度か訪れるうちにクリエイターのはしくれ(デザイナー)である私も興味をかき立てられるように…。

Higashiyoshino / 東吉野

 

東吉野村の陶芸工房

今回おじゃましたのは、陶芸工房「おく山ハウス工房」。東吉野村を拠点に制作活動する陶芸家のフランシスさんと由布子さんのおふたりにお話を聞いてきました。

Okuyama House Studio / おく山ハウス工房
工房兼住まいの古民家(写真提供:おく山ハウス工房)

 

それにしてもなんて素敵な空間。所狭しと作品の器などが並べられていて、それが古い日本の家に自然に溶け込んでいます。

Okuyama House Studio / おく山ハウス工房
(写真提供:おく山ハウス工房)

 

昨年4月に由布子さんが東吉野村に移住し、その後フランシスさんが加わり、以来お互いパートナーとして作品作りをするように。その前はおふたりともアメリカに住んでいたそうで、フランシスさんは拠点であるカリフォルニア州バークレーで、陶芸の講師をされていました。実はバークレーの対岸のサンフランシスコにちょこっと住んでいた私。お茶をいただきながらベイエリアのなつかしい話で盛り上がりました。

Green tea / お茶
由布子さんが淹れたお茶。本当においしかった

「ところでなぜ東吉野村なんですか?」
と疑問に思った私は理由を聞いてみました。

「日本に拠点を移そうとしていたとき、ちょうど東吉野村が陶芸をする人を地域おこし協力隊で募集しているというのを知ったんです。すでに多くの“ものづくり”で活動する方たちが移住されていて、村もその後押しをしているというのが魅力的でした。また、自然の美しさや暖かく迎えてくれる方たちに出会って移住を決めました」
と由布子さん。

 

窯作りからこつこつと

Soda kiln / ソーダ窯

陶芸には当然窯が必要。その窯も自分たちで作り、最近ついにソーダ焼き(詳細は後述)のための窯、試作2窯目が完成したそうで(次はもっと大きなものにします!と由布子さん)、その窯で焼いた作品を拝見することができました。

 

Pottery works / 陶芸作品

私はあまり陶芸のことが詳しくないんですが、フランシスさんの作品は常々Instagramなどで拝見していてとても惹かれるんです。色も形もワイルドで見ているこちらに何か語りかけてくるような力強さがあります。

 

Francis / フランシスさん
フランシスさん(写真提供:おく山ハウス工房)

たくさんの器に囲まれて、フランシスさんがソーダ焼きについて教えてくれました。ソーダとは炭酸ナトリウムのことで、焼成中にソーダ灰を窯に投入して焼くことで器の表面をガラス化させる技法だそうです。

 

Pottery works / 陶芸作品
ソーダ灰の量や窯の中の雰囲気によって光沢も色合いもまちまちでそれが作品の個性になっています。
Pots before firing / 焼く前の器
窯で焼く前の作品はこちら(写真提供:おく山ハウス工房)

「私は“ソーダ焼き”という技法が好きなんです。アメリカではソーダ焼きはかなりポピュラーなんですが、日本ではほとんどやられていません。そうした背景もあり、ここ日本で、ソーダ焼きやソーダ窯の作り方をワークショップで教えられればと思っています」
とフランシスさん。

そして日米陶芸の融合や日米の陶芸家の交流が生まれたらすごくいいね!と話は盛り上がり、
「文化交流という考え方、すごくいいですよね。私は日本の陶芸の伝統がとても好きだし、反対に自分の技法も日本の人に知ってもらいたい。両方の陶芸のアイデアが融合したら私の作品ももっと深みのあるものになるでしょうし、同時に日本の陶芸家の為にもなるでしょう」
と話してくださいました。

 

旅人には暮らすように過ごしてもらいたい

現在、地域の住民や近隣の人たちに向けて陶芸ワークショップなどを開いていらっしゃいますが、おふたりにはさらに大きなビジョンがあります:



陶芸を日本文化の中で捉えたワークショップをしたい、また作陶の場を提供したいと考えています。お茶碗を作るにあたって茶の湯を体験してもらったり、花入を作るにあたって茶花をいけてもらったり、茶室という場を五感で感じもらってそれを作品作りに生かしてもらいたいと思ってます。また、陶芸に没頭することを通じて自分と向き合う場にもなればと思っているので、長期間滞在して作陶してもらえるような場所を作りたいと思っています。

Tea ceremony workshop / 茶道ワークショップ
茶の湯ワークショップでお茶を点てる由布子さん(写真提供:おく山ハウス工房)

 

実はコロナ禍前、すでに何人か海外からの旅行者を受け入れていて、彼らは東吉野村での滞在にとても満足していたとか。由布子さん曰く、
「旅行者を迎えるというと、観光スポットを案内しなければと思ってしまいがちですが、ここに滞在しに来る人たちにとっては、掘りごたつに入っておしゃべりしてゆったりと1日中過ごす、そんなことも非日常で新しい体験なんです。迎え入れた私もリラックスできて楽しかったです」

Vase / 花器
写真提供:おく山ハウス工房

現在おふたりは、旅行者が戻ってきたときのため、ゲストハウスとして利用できる大きな古民家を探しています。どんなゲストハウスになるのか今から楽しみですね。



都会の喧騒を忘れ、東吉野村の大自然の中、昔ながらの村の家で暮らすようにゆったりと過ごす、長期滞在してアートやクリエイティブ活動をする、そんな“旅行”をみなさんもいかがですか?



PS: 古民家、早く見つかりますように!

おく山ハウス工房
所在地:奈良県吉野郡東吉野村大字小川346
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