カントリーロード、布目ダムへ連れてって
三重県の西に位置する内陸の地、奈良県。鹿が道を自由に歩き回っている奈良市。他にも、県内には“♪カントリーロード…”と口ずさみたくなるような、ブルーグリーンの山々に囲まれた地域があります。そんなあまり知られていない地域でもおもしろい体験ができるんです。
「東奈良名張やまなみライド」とは、関西東部の深い山と渓谷、山里を駆け抜ける一連のサイクリングコースです。詳しくはこちら
行 程 | 大三toco. (レンタサイクル) = 自然派農場しもかわ = 金田國真鍛刀場 = 牛ヶ峰岩屋桝形 = 布目ダム = 大三toco. Route map |
走行距離 | 11.7 km |
獲得標高 | 260 m |
実施日 | 11月21日 |
11月下旬の晴れた日曜日の午後、サイクリング&体験ツアーに参加しました。このコースは布目ダム周辺の“カントリーロード(田舎道)”11kmを走るというもの。自然や地元の人たちと触れ合いたいのなら、これ以上の体験ツアーはないでしょ! しっかりメンテされたレンタサイクルでポタリング※しながら体験ツアーに参加できるなんて、楽しいし、しかも環境にやさしいですよね。このコースでは下記の3つの体験をしました。
※散歩するようにのんびりとサイクリングすること
- レンコン掘りと、できたてレンコンづくし料理を畑で食べる
- 日本刀匠の工房を訪ねる
- 知る人ぞ知る、巨石へと続く森の小道をたどる。巨石の1つは約1000年前の仏像が刻まれたもので、下部には空洞があって中に入ることができる
このコースでは「大三toco.(だいさんとこ) 」がスタートとゴールとなっています。「大三toco.」は木の温かみが感じられる、開放的なコワーキングスペースで、シャワーやランドリーも完備、レンタサイクルもできます。大三toco.を出て農家の家々を過ぎ川沿いを2kmほど走ると、「自然派農場しもかわ 」に到着。ここでは10月〜4月に「レンコンの収穫体験」が行われ、レンコン堀りとレンコン料理の試食ができます。また、1年を通して体験できる「農家体験」もあるそうです。
レンコン掘りを体験
レンコンといえば蓮(ハス)。仏教のシンボルとして蓮を思い浮かべる人も多いのでは。実は、日本における仏教の起源をたどると、この地域に行き着くのです。今回のレンコンは、水中で育つ通常のものでなく、土の中を這うように成長する特殊な品種だそうです。レンコンはデンプン質が多く、味は淡白。オフホワイトの長い根には長い筒状の空洞があり、スライスすると、人間の鼻の穴のような楕円形の穴が、西部劇に出てくる馬車の車輪のようにきれいな模様を作ります。なんと主催者の下川麻紀さんは、スライスしたレンコンを着色して作ったイヤリングをしていました!
地面にしゃがんだり、ひざをついたり、座ったり、土をいじったり、もしかしたら泥まみれになるかもしれないので、サイクリングとレンコン掘り両方OKの服装をしましょう。実際に、昼食のときに私の横にいた男性の髪には少し土がついていたので、帽子をかぶってもいいかも。参加者には軍手と土を掘るための農具を渡されますが、私は、雨上がりでも重宝する、100円ショップで買ったビニールの靴カバーをつけました。他の参加者は普段履きの靴でレンコン掘りにいそしんでいました。
私たちが集合した畑は、丘のふもとの道路沿いに立ち並ぶ民家の下にあり、すぐ側には小川がさらさらと流れていました。説明の後、下川さんがレンコンの掘り方を実演してくれました。そして参加者全員一列に並び、レンコン掘り開始。
私の家族の他にも、他に8人ほどの参加者がいました。レンコンは地中でずっとつながっていて、まるで収穫というより採掘という感じ。少しずつ少しずつ掘り起こさないといけません。レンコンは太さがまちまちで、手首ほどの太さの部分もあれば、親指くらい細い部分もあります。特にこの種類のレンコンは、何メートルにも成長するものもあるそうですよ。それを折らずに収穫するには、根気と手際の良さと粘り強さが必要です。もし折ってしまっても(実は私も折ってしまった)、お昼ごはんを作るのに結局切ってしまうから問題ないですが、きれいに長いまま掘り起こせたらすごく気持ちいいし、写真映えすることも間違いなし!
11月の低い日差しの中、他の参加者とふれあいながらレンコンを掘り、暖かい気持ちになりました。同じグループの男性で、脇目も振らず集中して掘っている人たちもいました。そうこうしているうち昼頃には、レンコンが入った箱が運ばれてました。これからこのレンコンを洗って、薄くスライスして、調理します。
スープの入った大きな鍋が直火にかけられぐつぐつと音を立て、縦に割られた竹筒の中に入れたお米と水が直火にかけられています。
私たち参加者が一人ずつ川辺に降りて、岩の上で落ちないように気をつけながら道具を洗ったり手を洗ったりしていると、シートの上のテーブルには、レンコン料理が並び始めました。
あぁ、至福のひととき! 太陽の光、新鮮な空気や食材、畑という美しいロケーションで調理、食事をし、労働作業に参加し、食事が出されるまでのワクワク感も味わい、下川さんの料理の腕前にも感動を覚えるなど、まさにバッチリの条件が揃っていました。お皿を片付け、お手洗いを済ませたころには、午後2時になっていました。
若き日本刀匠をたずねて
お腹がいっぱいになったところで、自転車にまたがり「自然派農場しもかわ」から数kmほどのところにある「金田國真鍛刀場 」に向かいました。ここは、個人宅の一部なので、少人数限定の体験スポットといってもいいでしょう。とても特別な感じがしました。夫と息子を含む6人が作業台の周りに身を寄せ、刀の原料である玉鋼(たまがね)が入った箱を見せてもらったり、オレンジ色に発光した鋼を叩いて成形するのを眺めたりと、刀がどのように作られるかを見学しました。
その工程は1年かかることもあり、オーダーメイドの日本刀は新車並みの値段になることもあるそうです。刀匠の國真氏は、緻密で時間のかかる工程を説明してくれました。何度も試行錯誤を繰り返すこともあるそうで、失敗した刀は溶かしてしまうそうです。その工程にたどり着くまで、膨大な時間がかかっているのに…。満足の行く刀を作るために、1年間も絶え間ない改善を重ね続けなければならないなんて。刀は作り手がこの世からいなくなっても残るものであり、世界で最も長い耐久性のある、そして最も美しい工芸品のひとつといえるのかもしれません。刀は指紋のようなもので、専門家は表面の模様を細かく見ることで、作り手を特定できるそうです。國真氏は海外からの注文も受け付けています(詳しくはホームページ で)。
巨石を求めて
午後3時20分。次のスポットへ移動する時間となっていました。まだ、短いトレッキングが残っていて、日没までにダムを渡ってしまわなければなりませんでした。このコースも他のコースと同様、自転車に乗っている時間は長くはありませんでした。道路沿いの適当な場所に自転車を停め、牛ヶ峰の森の中の階段をどんどん上っていくと…角を曲がったところにありました!初めて目にする一枚岩の巨石です。
最初の巨石、「岩屋」は、仏様の座像を描くのに最適な大きさのキャンバスであるともいえる、直径約16メートル。岩屋の下にある洞穴に入るなんてまるでインディ・ジョーンズみたい。あなたなら入る? あなたは何か怖いものがありますか? 実は私は閉所恐怖症ぎみで、地震も怖いです。でも、何世紀も前からこの洞穴がここにあるっていうことは、地震が来て岩に押しつぶされる可能性はほとんどないってこと。とはいえ、万が一地震が来たらそれはそれで…なんて考えにふけっていたのでした。
そして私は真っ暗な空間の中に潜り込み、スマホを懐中電灯にして仏像を照らしました。この中で何かの儀式が行われてたんじゃないかな、そんな気がしました。1分後、私は2つ目の巨大な“鼻の穴”から無傷で抜け出しました。ちなみに、ネットで見つけたあるサイトによると、洞穴の中の仏像は、お彼岸になると日光が当たるように配置されているそうですよ。
「岩屋」の近くには「桝形(ますがた)」と呼ばれる巨石があります。その中には彫刻道具が安全に保管されているといわれていて、巨石の上のほうには、四角い扉が彫られています。
ここは聖なる場所であり、好奇心と想像力に火をつける場所であると同時に、千年の歴史に敬意を払いつつ厳粛な気持ちにもなれる場所でもあるのです。日本刀鍛錬もそうですが、この巨石スポット「牛ヶ峰岩屋桝形(うしがみねいわやますがた)」も、ここでしか見ることができない特別な体験。とても光栄な気持ちになりました。
布目ダム
停めてある自転車の方へと森を下ったころにはあたりが暗くなっていました。このコースの最後の区間であるダム、そして「大三toco.」に戻る“カントリーロード”へと向かわなければなりません。ダムを渡りながら、芝生や低木、生い茂る山々、水面に映る景色を俯瞰することができました。「大三toco.」で自転車を返却したのは、午後5時くらい。ちょうど日が沈んだところでした。
その夜、私たち一家は曽爾高原のバンガローに泊まりました。新鮮な空気、活動、五感の刺激あふれる一日、そして“人生を最大限に生きる”的な一日の後は、さすがによ〜く眠れるに決まってますよね。
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